給料は上がっているのに、なぜ「家が買いにくく」なっているの?

給料は上がっているのに、なぜ「家が買いにくく」なっているの?

「今年もベースアップ(基本給の底上げ)のニュースをよく見かけるし、お給料は上がっているはず。でも、家を買おうとすると、なんだか前よりハードルが高い気がする……」

そんなふうに感じている方、実は少なくないはずです。2026年の春闘(毎年春に行われる、会社と労働組合が給料アップなどを話し合う交渉)では、大手企業を中心に3年連続で5%を超える賃上げが実現しました。それなのに、なぜ「家が買いにくい」という感覚が消えないのか。今回は、その裏側にあるカラクリを、なるべくかみくだいて解説してみます。

給料は上がっているのに、なぜか「増えた実感」がない

2026年の春闘では、トヨタ自動車が6年連続で満額回答(組合の要求どおりの金額で会社が答えること)をするなど、自動車や電機といった大手企業を中心に高い水準の賃上げが相次ぎました。連合(労働組合の全国組織)の集計でも、1次集計の時点で賃上げ率は5.26%と、歴史的な高水準が3年続いています。

数字だけ見ると、お給料はしっかり増えているように感じますよね。ところが、ここで見落とされがちなのが「物価も同じくらい、あるいはそれ以上に上がっている」という事実です。給料の額面(名目賃金)がいくら増えても、物やサービスの値段(物価)がそれ以上に上がってしまうと、実際に買えるものの量、つまり「実質賃金」はむしろ目減りしてしまいます。2025年の消費者物価は前年より3%台の上昇となっており、「賃上げしたのに生活が楽にならない」という感覚は、決して気のせいではないのです。

一方で、家の値段は「賃上げ」よりずっと速いペースで上がっている

問題はここからです。お給料の伸びが年5%前後だとしても、住宅の値段はそれをはるかに上回るペースで上昇しています。

不動産経済研究所の調査によると、首都圏の新築マンションの平均価格は2025年に前年比17.2%増の9,182万円となり、初めて9,000万円の大台を超えました。東京23区に限れば、平均価格は前年比21.8%増の1億3,613万円。3年連続で「平均でも1億円超え」という、かつてなら考えられなかった水準が当たり前になっています。マンションだけでなく新築の戸建てにも同じ流れが及んでいて、首都圏の平均価格は2026年5月時点で5,078万円、前年同月比で6.0%の上昇と、こちらも初めて5,000万円台に乗りました。

つまり、給料が年5%前後のペースで増えても、住宅価格はそれを上回る、あるいは数倍のペースで上がり続けている。この「伸び方の差」こそが、「収入は増えているはずなのに、家は前より買いにくい」と感じる正体です。

なぜ家の値段はここまで上がるの? ―「コストプッシュ型」というキーワード

住宅価格の高騰には、需要(欲しい人の多さ)が引っ張り上げる面もありますが、今回特に大きいのが「コストプッシュ型」と呼ばれる値上がりです。これは、家を建てるための土地代・資材代・人件費といった「原価」そのものが上がり続けているために、売る側の事情として価格を上げざるを得ない、という構造のこと。円安による輸入資材の値上がりや、建設現場の人手不足による人件費の上昇が背景にあり、「需要が落ち着けば値段も下がる」というシンプルな話にはなりにくいのが、今の住宅市場の厄介なところです。

「アフォーダビリティ」という考え方

こうした状況を表す言葉として、不動産業界では「アフォーダビリティ(affordability)」という言葉がよく使われます。これは簡単に言うと「収入に対して、どれくらい住宅を買いやすいか」を表す指標のようなもの。収入の伸び以上に住宅価格や金利が上がると、たとえ額面の給料が増えていても、このアフォーダビリティは悪化してしまいます。

今の日本はまさにこの状態です。賃上げ率は年5%前後という高い水準ですが、マンション価格の上昇率はその3倍前後、住宅ローンの金利も日銀の利上げを受けて上がってきています。「収入増加」「価格上昇」「金利上昇」という3つの動きが同時に進むと、購入できる人の範囲がじわじわと狭まっていく、という現象が起きやすくなります。実際、東京23区の新築マンションでは、共働きで世帯年収が高い、いわゆる「パワーカップル」と呼ばれる層でなければ手が届きにくい水準になってきているとも言われています。

「買える金額」より「無理なく返せる金額」で考える

ここまでの話をまとめると、今は「お給料は上がっているけれど、家の値段はそれ以上に上がっていて、しかも住宅ローンの金利まで上昇している」という、住宅購入者にとってはなかなか手強いタイミングだと言えます。

だからこそ意識したいのが、「銀行がいくら貸してくれるか(借入可能額)」ではなく、「毎月、無理なく返し続けられる金額はいくらか」という視点です。賃上げのニュースを見て気が大きくなり、金融機関の審査で通る上限まで借りてしまうと、物価高で生活費が想定より膨らんだときや、今後さらに金利が上がったときに、家計が一気に苦しくなるリスクがあります。

  • 手取り収入のうち、住宅ローンの返済に充てる割合を何%までに抑えるか
  • 賃上げによる収入増を「前借り」して住宅予算に組み込みすぎていないか
  • 今後の金利上昇や物価上昇があっても耐えられる、余裕を持った返済計画になっているか

このあたりを、購入を決める前に一度立ち止まって確認しておくと安心です。賃上げのニュースは明るい話題ですが、その裏側で住宅価格や金利がどう動いているかもあわせて見ておくことが、これからの住宅購入では欠かせない視点になりそうです。

鬼頭 良行のプロフィール写真

株式会社ライフオブライフ代表 住宅相談を専門とする住宅不動産業界歴26年のファイナンシャルプランナー。買う人、売る人の立場に立った「住宅不動産コンサルティング」「将来家計のサポート」を行う